西ヨーロッパの若手建築家事情 (Young Architects in the West Europe)

グローバル社会だの高度情報化社会だのと言っても、日本国内で敷衍される海外情報はとても表層的で安っぽい。『建築の解体』のような本がこの時代にもう一度書かれるべきだと思う。

とはいえ僕の志向はまだそんなに固まっていないし、留学経験者の責任を果たすなんて義務感もまったくないのだが、とりあえずここではBerlage Instituteを拠点ないし中継点として活躍する西ヨーロッパの若手建築家たちのことをすこしだけ語ってみたい。そういう気分。

現在のオランダ、ベルギーあたりには、おもにBerlage Instituteを中心としてゆるやかに繋がった40歳前後の建築家たちの一群がある。彼らはみな個人名を掲げないパートナー制で事務所を運営し、各個人は建築学校のチューター(ユニット・マスターやスタジオ・プロフェッサーとも呼ばれる)として、それぞれ学生を率いて実験的なプロジェクトを展開している。

僕にとって興味深いのは、彼らが「スター建築家の論理」に反抗しているように見える点。彼らが学生時代に目撃したのは、かなり硬派な問題意識を掲げて出発したはずのポストモダニストたちがやがて自らのスタイルを固着させ、ついにはグローバル資本の動きに合わせて世界中にアイコン建築をスタンプしていくという悲(喜?)劇だったと思う。英語でいうところの”STARCHITECT”という言葉は、彼らにとっては皮肉の意味でしか使われない。その反動として彼らが選んだのは、安易な形態主義に迎合せず、調査対象を都市や社会にまで広げてコンテクストを繊細に読み込むことだった。彼らは楽しげな雰囲気を醸すガランドウの彫刻ではなく、そこにいる人間のためのシェルターを作ろうとしている。

しかしその反面、彼らは建築の自立性(僕にとってはほとんど排他性と同義)をつよく信じてもいる。過去の建築理論を参照し、自分たちの作品を歴史的遠近法の中に位置づけようとする。ややクラシックだが美しいコラージュ画像やアクソノメトリックによる表現にこだわり、安易にマス・メディアに消費されることを拒む。Representation(代理=表象)こそが建築のもっとも純粋な形であると主張しているかのようだ。こういった側面はとてもヨーロッパ的であり、同世代のアメリカ人建築家とは異なると思う。

簡単に言えばこんな感じの集団なのであるが、僕には彼らが、モダニズムの頑迷さに反抗したチームX世代に似ている気がする。どちらもやはり均質なシステムに叛旗を翻して、歴史や人間の価値を見直そうとした。そう捉えると、そろそろポストモダニズムに別の名を与えて、建築におけるひとつの時代の区切りを示してもいいのではないかと思える。でもきっと、問題はそんな簡単ではないのだろう。チームXの敵はまだ人間精神による合理性だった。しかしいまの若手建築家が戦わなければならないのは、人間精神さえも計算可能なものとして扱うより上位の合理性だ。彼らには、たとえ逃げ道が残されていたとしても、まだ真っ向から戦う術は見つけられていないと思う。

それなら僕らの世代にはなにができるだろう。とりあえず彼らの硬派な活躍を期待しつつ、その動向をやや批判的に見守り、そして必死で考えることくらいだろうか。
具体的な参考事例がないとただの与太話になってしまうので、これを書いているあいだ念頭にあったいくつかの建築事務所を以下で簡単に説明しておこうと思う。

DOGMA (ブリュッセル):
もっとも硬派。いまだ実作はないが、政治哲学をベースにしたハードコアな建築理論と病的なまでに繊細なドローイングで若者たちのカリスマ。パートナーのPier Vittorio Aureliは母校Berlage Instituteで長年”Capital City”プロジェクトを率いて、2000年代の基盤を築いた。彼の主著”The Possibility of an Absolute Architecture”は、「アーバニゼーション(彼にとってはグローバル資本主義の物理的表象)」に建築がどう対抗できるかを探った野心作。

51N4E (ブリュッセル):
この中ではもっとも実作が多く、ベルギーの若手建築家の代表的存在。あまり理論的ではないが、スタイルを固定せずにコンテクストを読み解き、毎回作品に新鮮な価値を付与していく手腕は見事。パートナーのFreek PersynはBerlage Instituteでいくつかのスタジオを率いている。

OFFICE KGDVS (ブリュッセル):
理論と実践のバランスが良く、若者に熱狂的な人気を博する。幾何学的な平面と色彩鮮やかで美しいドローイングが特徴。インタビューではアメリカ西海岸の風土に影響を受けたと言っているが、なんとなくハイブリットな雰囲気はそれが理由か。パートナーのKersten GeersとDavid van SeverenはBerlage Instituteでいくつかのスタジオを率いている。

BAUKUH (ジェノヴァ):
イタリア新合理主義をやや(キモ)可愛くしたような造形が特徴。事務所名の由来は不明。インスタレーションから都市分析までこなし、ドローイングにも非常にこだわる。パートナーのPier Paolo TamburelliはBerlage InstituteでP.V.Aureliのスタジオに参加していた。イタリアの理論建築誌”SAN ROCCO”の発起メンバーの一人であり、Berlage Instituteでスタジオを率いてもいる。なおSAN ROCCOはアメリカのLOG誌ほどハードコアではないが毎回斬新な切り口を見せてくれる特異な存在。

MONADNOCK (ロッテルダム):
まだほとんど実作がなく一般的には無名の事務所だが、最近ドイツの建築雑誌”ARCH+”に”Hardcore Architecture”の担い手としてDOGMA、OFFICE KGDVS、BAUKUHとともに紹介された。ラディカルなコンセプトとダイナミックな造形を称揚するオランダ現代建築の潮流に批判的であり、幾何学平面とレンガのファサードにこだわる。古典的だと揶揄されることも多いが、モダニズム前後の潮流を踏まえた歴史的視点で新しい建築の可能性を探っている稀有な存在。Berlage Instituteとは”National History Museum”プロジェクトで接点がある。

もちろんここに挙げた建築家がすべてではないが、彼らのおおくは僕の先輩であったり指導教官であったり上司であったりするので、とりわけ思い入れが強い。いまはなきBerlage Institute (まだ名前を変えて存続しているが、そこらへんの事情はまた機会があったら語りたい)の思い出に浸りつつ、やや愛憎入り混じった眼差しで、とりわけ彼らの今後に注目していきたいと思うのだ。

Advertisements

One comment

  1. somehow, your article is long, even in the front page. ^^ and Google translate is quite awful… haha

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s

%d bloggers like this: